一本しかなかったTDミノーSP。

面白いお話を致しましょうかな。
私が御世話になっておったスタジオの兄様からスズキ釣りに誘われましてな。
なんでもそこは無茶苦茶によう釣れる場所と聞いて喜んでついていったんじゃよ。
夜の10時くらいからゴムボートを出し、二人で東京湾の某ポイントに向かったんじゃ。

「この辺りは座布団くらいのエイがウヨウヨいるから落ちたら死ぬで~」

などと言いながらゴムボートを揺らすもんじゃからビビッちまった。( ̄▽ ̄;
イカ釣り漁船がすぐ脇を通ったりして、こっちのゴムボートは電気がついてないんだから轢かれちまうぜよ。
そんなこんなでポイントに着くまでに、もう疲れきっておったわい(笑)。

到着したポイントはどんな場所かと申さば、とんでもなく馬鹿デカイ排水溝が凄まじい勢いで水を吐き出している怖い場所。岸壁からの照明が多少はござったが、やはり視界が悪くての。
ゴォーゴォーと唸る排水の音がさらに恐怖心を煽ったわい。

ワシはスズキ釣りはほとんどやらぬゆえ、シンキングミノーなんざ所持しておらず、仕方がないのでTDミノーSPをセットした。隣りで兄様はCDラパラ9㎝RHをセット。当時のスズキ釣りルアー超定番モデルでござるな。

そして、いよいよそれがしの第一投。

排水溝に向かって「ぴゅるる~~~っ」
そしたらいきなり「ガッツ~~~ン!!!」ときたもんじゃ。
よっしゃよっしゃで50up。

隣りで兄様は「来てよかっただろ~♪♪」とご機嫌じゃ。

調子に乗って第二投目。「ぴゅるるる~~~っ」
そしたらまた「ガッツ~~~ン!!」じゃ。
あれまあれまで、また50up。

兄様チョッと驚きぎみ。

そんなこんなでワシが7.8本釣ったところで兄様はルアーチェンジ。
CDラパラ9㎝オレンジ金。

……………しばらく時が経ち……………

なんやかんやとワシは調子よく釣れ続け、20尾近う釣ってしもうた。
しかし、兄様は0尾………。

ここで兄様またルアーチェンジ。
CDラパラ9㎝金黒。

兄様が段々怒ってきているのがよう分かった。
ワシが釣るたびに「マジで!?」「マジかよ!!」と唸り、
布袋顔が般若面になっていく過程が暗がりでもよう分かった。

私が30尾以上釣った時点でも兄様は0尾………。
同じボートで同じ排水溝に投げているにも関わらずじゃ。

「●●●パターンが炸裂!」とか、「●●ルアー爆発!!」など、雑誌でよう目にする言葉で御座るが、偶然やもしれぬし、だいたい「このルアーだけしか釣れない」などという事があるわけがない。
と信じておった。
が、この状況ななんじゃ。このルアーしか釣れんではないか。
すでに隣りの兄様からは一言の言葉もなく、タマに鼻をすする音が聞こえるのみ。
こころなしかボートが小刻みに震えておったように感じたわい。

ワシはもう心の中で、「スズキ君達よ、頼むからもうワシのルアーは相手にせんでくれ~~」
「エイに刺されて死にとうはないんじゃぁ~~」
と叫び続けておった。

途中でキャストを中断しようかとも思うた。しかし、なにか余裕をかましておる様で嫌じゃったし、
「これ使ってみます?」と、一本しかないTDミノーSPを貸そうかとも思うたが、
「ナメんじゃねぇー!!」と殴られそうじゃったし。。。
いまさら「釣れないっスね~」などという洒落が通じるゾーンは遠に過ぎており、言おうもんならワシは間違いなくエイの毒針にて討死でござったろうよ。

ゴムボートというほとんど肩も触れ合うような密空間で、およそ3時間。
ワシの戦果は40尾をゆうに超えてしもうた。

兄様は………0尾。

同じボート、同じ時間、同じポイント。何が違うんじゃ!

「ルアーだけじゃん…( ̄▽ ̄;」

引き方か?
んなもん兄様はとっくに横目でワシを見ながら、リズムも距離も合わせておったわい。
途中何度もラインが交差するくらい同じポイントに投げておったわい。

やっぱルアーだけなんじゃん…( ̄▽ ̄;」

ルアー釣りを始めて四半世紀、あれほど「釣れて欲しくない」と思った事はなかったのぅ…。

帰りのボートで兄様が無言でエレキを回していた横で、よしゃぁいいのに遊びで投げておったワシのルアーに、何者かが真っ白い腹を翻して直下から突撃してきおったんじゃ。

ヒラメよ……。

「ブァレてくれぇーー!!」
心の中で絶叫したのぅ。

運よく?掛かりが浅く、3.4回ロッドを絞り込んで去って行きおった。
あのまま掛かっておれば、ワシはおそらくタックルごと海に落とし、
「ヤベッ、落っこどしちゃいましたよ~~エヘへ ( ̄▽ ̄;」
などと笑いながら泣いておったことで御座ろうな。

しかしまぁなんじゃ、「ルアーがハマる」っちゅう話は誠なんじゃのぅ…。